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デザイナーのひねもす。

作家、重松清のすすめ。

こんばんは、さじです。

自分、デザイナーではありますが、画家や芸術家には疎くてサッパリです。どちらかといえば、文章を書く人の方が身近に感じています。物心ついたときから読書は好きで、気に入った作家や一時期ハマった作家は数知れず。ただ、マイブームが過ぎると本や話の内容も後書きで仕入れた作家の人となりも忘れてしまうのが玉に瑕です。

でもまた時間が出来たらじっくり読みたいなあ、というひとりの作家がいます。

www.shinchosha.co.jp

重松氏を知ったのは新聞の作家紹介コーナーの小さな記事でした。当時自分は30代半ばだったと思います。たまたま目に入った書評を話半分に、図書館で借りたのが始まりでした。

それまで好んできたジャンルといえば、スティーブン・キングアガサ・クリスティーコナン・ドイルといった有名どころ、文学の名作であればオペラ座の怪人パール・バックの大地など、日本の作品にはほとんど触れずにきました。村上春樹などは申し訳ないけども苦手な部類。(1、2冊読みましたが合わなかった。)

重松氏の作品に出会い、日本にも良い作家がいたんだなあと心酔。それまで知らなかったことを悔しく思い、一時期読み漁っていました。彼は多筆家なので発表した作品が多く、しかもどれも身近な種類の人間の話ばかり。それぞれに小さな光を感じさせる終わり方が好きで、自分にはハズレのない安定感があります。

重松氏は岡山県の出身だそうです。作家の出身地ってかなり作品に影響しますが、中でも「とんび」には広島弁を使う父ヤスと息子アキラの苦くも温かい日常をアキラの成長に合わせて進んでいきます。昭和の近所付き合い、父子の生活を温かく支える友人たち、頑固でちょっとダメな親父ヤスの可愛らしさ。時に笑いを誘い、涙を誘います。壮大な話ではないところがまた良い。執筆時、重松氏は上京していたはずで、氏の父親を重ねたかのようなリアルな描写や広島の小さな町の存在感が、故郷を思い書いたもののように感じていました。

初めて読んだのは「きみの友だち」。「きみ」と呼ぶ語り手は、足に障害を負った少女とその友人それぞれを各話の中心として、彼女が大人になるまでを描いていきます。自分の子どもらが小学生の頃で、子どものこれからの姿を食い入るように読みました。姉弟なので重ね合わせやすかったのかもしれません。

「きよしこ」では重松氏の実体験をなぞった吃音の少年の話です。小さな男の子がハンデキャップを持ちながら過ごす日常と成長を追います。辛い経験や悔しい思いもする中で得る小さな幸せ。最も好きな作品です。

重松氏の作品は難しい言葉もなく、どこにでもいるようなひとりが主人公です。だからこそ小さな世界から世の中を見つめ、心が変化していく過程を丹念に描くので感情移入しやすい。重苦しいテーマでも平行線を進み、最後にクイっと少し上がる、または緩やかな傾斜で静かに消えていく、そんなイメージです。問いかけで終わるようなものではありませんが、最後の最後は描かずに余韻を残す。それがまた、絶妙です。

自分が読んで衝撃を受けた「エイジ」「疾走」「十字架」など社会への警鐘を感じる作品も数多くあります。親子愛がグッとくる「かあちゃん」、死後と現実の境界で幸せを問う「流星ワゴン」などは生き様や死を考えさせます。少女と少年の友情「くちぶえ番長」は児童文学のようで子どもにも読みやすい。短編の「季節風シリーズ」にはどこかしら自分と似た境遇の主人公がそこにはいました。どれも現実世界ではパッとしない、でも今を生きる人々の物語を読むと「自分もがんばろう」と気力が湧いてくる。深く響く作品もあれば、サラッと読める作品も。重松清の描く「人」の話、一度手にしてみてくださいね。

さじ

追記 「とんび」は今年劇場公開予定です。過去にはNHKスペシャルドラマ民放連続ドラマで映像化していますが、NHKが世界観を崩さずとても良かったです。映画は期待半分、不安半分。原作が素晴らしいので小さくまとまらないといいなあと思います。

特別お題「わたしの推し