ゆるっと広告業界

デザイナーのひねもす。

小説を超えるルポ。

本|「ある行旅死亡人の物語」毎日新聞出版

こんばんは、さじです。

正月に本屋を訪れましたが凄い人出に挫けて、ささっと欲しいのだけ買って来ました。どこからこんなに人が湧くのかまったくもって驚きです。あ、自分もか。

さて、web配信で非常に興味をそそられた記事が書籍化されました。

新聞記者のルポですが、立ち読みしてから買うはずが、実際にはほぼ読まずレジへ直行。Amazonでよかったんじゃね?は結果論です。

内容は、大金を残して孤独死した老女が一体何者なのか?とその生涯を新聞記者が追うルポルタージュです。著名人や事件のノンフィクションじゃないのが珍しいですね。

住民票もなく年金も労災も受け取らず、世間を避けるようにひとり暮らしをしていた右手指を欠損した彼女。正体を解き明かすべく地道な取材を重ねる新聞記者の尽力もさることながら、残された遺品が物語る点と点が読者を惹きつける。若かりし頃の美しい老女、旅先に連れ添う男、そしてふたりの子どもの写真。姓のちがうハンコ、ロケットペンダントに残された数字、ぬいぐるみとベビーベッド、何より3000万以上の現金は一体どこから?。。と数々の謎で読み応えがありました。

全てが明らかになるわけではありませんで、全体の謎の半分も明かせません。そこがノンフィクションとフィクションの違いですが、それをカバーする濃度。ある意味、妄想を掻き立てる終わり方です。

結末は好き嫌いがあると思いますが、専念できる本業のルポライターとは異なるので、本業との兼ね合いがあるのは仕方ないかなと。もしさらに追求できる立場ならば、買い物帰りにどこにいつも寄っていたのかをもう少し詳しく調べてほしい。子どもを亡くしたのかな。。まさかどこかに埋めてあったり。。と感じたりもしました。(小説の読みすぎ?妄想です!)

残念なのは、同行した女性記者視点は蛇足だったのでは、というところ。どちらが書いてるのかが読み始めは曖昧で。声や情景を頭で映像化して読む自分は、それで巻き戻したりしてました。執筆者名を文末ではなく文頭にしたり、執筆の特徴を工夫してほしかったかな。新聞だと文末に名前が自然って感覚なんだと思いますが、書籍化してるんでそこは妥協した方が。。あと校閲ももうちょいした方がいいかもー、なんて。余計なお世話ですね。

そこを除けば、この数年で最も集中して一気読み(およそ3時間で即日読了)するほどでした。読後あれこれ考える本にも滅多に出会わない。ミステリ小説よりよほどミステリー。

承認欲求だらけの現代社会でここまで存在を消そうとした理由に頭を占拠されました。彼女の幸せそうな写真を見ていると、金や物の無意味さも感じる。見た目も華やかで頭の回転も良いひとりの女性が、社会や世間に背を向けた理由が倫理に反することじゃなかったことを願う。

本買うほどルポなんて興味ないわー、って方はweb記事もまだ残ってますのでこちらからお試しください。(後編も読めますし、書籍では掲載してない写真もあります)

現金3400万円を残して孤独死した身元不明の女性、一体誰なのか(前編) 「行旅死亡人」のミステリーを追う | 47NEWS

この数年、実用書ばかり読んでたので、たまにはルポや小説もいいですね。今年はそういった(経費で落とせない)本も幅広く読もうと思います。

さじ